2012 年に再生可能エネルギー特措法(以下 FIT法)が施行され,太陽光発電を中心に再生可能エネルギー発電(以下,再エネ発電)が急速に拡大した。環境エネルギー政策研究所(以下,当研究所)の推計では2012年に10.1%であった再エネ発電比率は2017年には 15.6% に増加し,うち太陽光発電は 5.7% と増加分の大半を占めた1。FIT法施行後,とくに1,000 kW(=1 MW:1メガワット)を超える大規模な太陽光発電(メガソーラー)が大幅に拡大した2。FIT 法施行から2017年12月末時点までに全国で5,895件,1337万kWのメガソーラーが導入された3。これは同期間の太陽光発電増加量の3分の1に相当する。

太陽光発電の増加にともない,地方自治体や地域住民とのトラブルが増加してきた。設備完成後の災害による事故も報道されているが4,事業開発段階および運営段階において事業者と住民や各種団体,行政の間で合意形成が成立せず住民運動や行政からの指導を受ける事例も多い。本稿ではこれらを地域トラブルとして取り上げ,行政・事業者・住民グループにとっての今後に向けた教訓を引き出す。

太陽光の地域トラブル事例の全体像

メディアでの地域トラブル報道状況

2016年3月に発表した新聞などのマスメディアの情報をもとにした当研究所の調査5では,景観,防災,生活環境の保全,自然保護を主な理由として,太陽光開発関連の地域トラブルが50件確認された。その後の継続的な調査により,2018 年8月までに当研究所が把握している地域トラブルは 68 件となった(図 1)。

図 1. 太陽光発電の地域トラブル

図 1. 太陽光発電の地域トラブル(Google map を用いて作成)

県別に見れば,長野県(10 件)や大分県(7 件),山梨県(6 件)で発生件数が多い。規模は1 MWを超えるメガソーラークラスが 52 件あり,なかには100 MWを超えるものも5件ある。一方,1MW未満の規模でも15件のトラブルが発生している。

ただし,これらはメディアに掲載された情報を整理したものであるため,実際の地域トラブルの件数はもっと多いと考えられる。

全国自治体アンケートから見る地域トラブル

2017年5月から7月にかけて一橋大学などと合同で実施した「第 2 回全国市区町村再生可能エネルギー実態調査」6から,自治体が抱える再エネに関する地域トラブルが明らかになった。「あなたの自治体にある再生可能エネルギー施設について,地域住民等からの苦情やトラブルはありますか」という設問に対する回答を図2に示す。回答自治体の4分の1強がこうしたトラブルが過去に発生したか,現在発生していると回答している。さらに2014年の第1回調査と比較すると,その割合は約2.5倍に増えている。この期間の再エネ設備の増加割合から考えれば,太陽光発電に関連したトラブルが増えていると考えられる。

さらにトラブルが過去に発生した,現在発生している,発生を懸念していると回答した524自治体に,トラブルの具体的な内容を尋ねた設問に対しては,回答が多い順に景観(275 自治体,52.5%),光害(185 自治体,35.3%),騒音(161 自治体・30.7%),土砂災害(137 自治体,26.1%),住環境の悪化(133 自治体,25.4%)となった(複数回答あり,発生を懸念する回答を含む)。騒音については風力発電との関連が強いと考えられるが,その他はいずれも太陽光発電にも当てはまるものである。

図2. 再生可能エネルギー施設への苦情やトラブル

図2. 再生可能エネルギー施設への苦情やトラブル(第2回全国市区町村再生可能エネルギー実態調査より)

国および地方自治体の制度の概況

2017 年 4 月に改正FIT 法が施行され,地域トラブルの防止に影響する重要な項目として,①「法令および条例遵守の義務づけ」,②「地域住民との適切なコミュニケーションの推奨」(事業ガイドラインによる)が記載された。①により,自治体が適切な条例を定めておくことで,条例違反があった  場合には事業計画認定の取り消しにつながるため,地域トラブルを予防することが期待されている。②はあくまで推奨事項であり,適切なコミュニケーションが実行されなかった場合の処分などは定められていない。

現在国の環境影響評価(環境アセスメント)制度では太陽光発電は対象となっておらず,今後対象とするための検討が始まる7が,いずれにせよ数十MWの大規模な計画のみが対象となること,環境への影響を低減するための制度であり地域住民との合意を形成するための制度ではないことに注意が必要である。

さらに大局的に見れば,地域トラブルの根底には過去のリゾート開発やゴルフ場開発などでも繰り返されてきた日本の土地開発規制の課題がある。例えば農地の開発は農地法により厳しく制限されているが,林地の開発は比較的容易である。そのため林地での大規模な開発計画が持ち上がり,景観,土砂災害や水害についての懸念が高まるという構図が繰り返されている。

こうした国の政策枠組みのなかで,地域トラブルに直面する地方自治体は主に5種類の制度的対応策を組み合わせて対処している。①条例の新設による抑制,②既存の条例による住民合意の活用,③環境アセスメント条例の適用,④条例やガイドラインによる手続的義務,⑤行政指導である。

①は太陽光発電などの設置を抑制する地域を定める8,もしくは市長への届出や同意を必須とする条例を制定する。②は既存の景観条例や自然保護条例などに,開発に際しての周辺住民の同意の義務づけの規定があれば,その条項を利用する。③では県単位の環境アセスメント条例の多くは大規模な太陽光発電を対象としているため,その審議を通して災害や自然保護の影響を低減させる。④は条例やガイドラインの制定により中小規模の太陽光発電事業であっても事前に届出や住民への説明会を義務付ける手続的手法である。⑤は自治体が事業者との協定や交渉を通じて開発の影響を軽減する,代替措置を講ずる,住民との丁寧な合意形成を促すなど,行政指導を行う。

こうした自治体の制度的対応と,事業者の対応,住民の運動が地域トラブルの行方を左右しているため,次節では具体的な事例を見ていく。

具体的な事例と教訓

諏訪市・茅野市にまたがる地域トラブル

長野県諏訪市の牧野組合が管理していた土地で東京の事業者A社が89MW の太陽光発電事業を行うという計画が 2015年2月の新聞記事に掲載された9。この計画に対し,下流域の茅野市の住民グループは敷地内の沢から続く川で過去に土砂災害が起こったこと,湧水への影響が懸念されること,計画地には貴重な植物が存在する湿地帯があることなどを理由に計画の中止を要望してきた。住民グループは,茅野市議会への陳情書と署名を提出し,市議会で陳情趣旨採択が決議されている。また諏訪市長や茅野市長への要望書や署名の提出などを行ってきた。さらに周辺の漁協も懸念を表明している。

この事例では長野県で初めて太陽光発電事業が環境アセスメント条例の対象となり,方法書手続きを経て,県側は多数の項目にわたる意見をつけている10。2018 年 8 月末時点では準備書の段階となっており,県の助言に対して事業者が計画変更などを行い,手続きを進めている。環境アセスメント条例自体はそもそも事業を止めるための制度ではないが,知事意見は広範に渡り,事業者がその対応をどのように行うかが注目されている。

この事例からの教訓は,2 点挙げられる。第一に自治体での対応の難しさである。茅野市は2014 年 9 月に「茅野市再生可能エネルギー発電設備の設置等に係るガイドライン」を制定していたが法的な強制力はなく,しかも今回は事業用地が諏訪市にあるため,行政としての対応は難しい。本件では県の環境アセスメント制度が実質的に事業実施の可否を決める制度の役割を果たしている。第二に,住民グループが継続的に活動を続け,ネットワークを広げて影響力を高めていくというプロセスの重要性である。

富士見町での「冷静な撤退」

長野県富士見町では,2013 年中頃から八ヶ岳山麓での地元自治区が所有する土地などでの 24MW の太陽光発電事業を東京の事業者B 社が進めていた。周辺住民グループは,土砂災害や地下水への影響,景観への影響などを懸念し,町長に条例による規制の要望を提出し,事業者にも全町民向けの住民説明会を要求するなどしていた。富士見町は町内で小規模案件も含めて地域トラブルが増えていたことから,2015 年 10 月に「再生可能エネルギー発電設備の設置に関するガイドライン」を策定した。これは 10 kW 以上の設備が対象であり,計画書の事前提出と調整,住民への説明会実施,環境影響の低減などを定めたものであるが,法的拘束力はない。

結論から述べれば,B 社は周辺住民と協議を続けたが,町の環境保全条例にもとづく周辺自治区の同意が得られず,2017 年 1 月に計画を中止した11。こうした撤退は数十MW 規模の大規模な事業ではまれである。

この事例から得られる教訓は 2つある。第一に,今回の事業撤退の決め手となったのは環境保全条例であり,すなわち町と住民の歴史が反映されているということである。同条例は1978 年に定められている(1988 年改正)ため,メガソーラー開発に対して作られたものでないことは明白である。しかしこの条例の存在は,これまで外部主導の開発に対して自治を重視してきた証左であろう12。第二に,事業者の姿勢である。事業者は近隣住民の理解を得ようと協議を行い,議論が平行線をたどることはあったとしても,法令違反や無理な開発継続はなかった。運動を行った住民グループにとっては不本意かもしれないが,このようなケースは「冷静な撤退」として広く共有すべき事例と考える。裏を返せば,日本各地で強引な土地開発が行われているということでもある。

長野県の制度的対応

長野県では林地でのメガソーラー計画が多く,地域トラブルも早くから顕在化していた。長野県は,環境エネルギー課を中心に地域トラブルに対して早期に県と市町村の間で協議をはじめるとともに県内関係部署とも連携し,対策を練った。とくに2015年5月から県と市町村での「太陽光発電の適正な推進に関する連絡会議」での検討を経て,総合的な対策を実施した。長野県は「太陽光発電を適正に推進するための市町村対応マニュアル~地域と調和した再生可能エネルギー事業の促進~」を策定し,2016 年 6 月に公表した。さらに大規模なメガソーラー開発は県の環境アセスメント条例の対象とするよう改正し,数MW 規模のメガソーラー開発には事前の届出や住民との合意形成,地域協働型事業への誘導を促す条例のモデル案を提示した。こうした政策の組み合わせにより,地域トラブルへの対応だけではなく,地域主導型や地域協働型の望ましい再生可能エネルギー事業の促進も同時に進めている。

長野県の包括的な対応策からは 2 つの教訓が得られる。第一に 2013 年の環境エネルギー戦略策定を通じて,地域トラブルが起こる前に望ましい再エネ事業のあり方を定めていたことで,総合的かつ迅速な対策の検討が進められたことである。第二に県と市町村の役割分担を初期から明確化して検討したことである。大規模なメガソーラー開発は県で,小規模な開発は市町村により個別の実  情に合わせた対応を行うが,そのための支援は県が手厚く行っている。こうした長野県の政策的対応は,他自治体にとって貴重な示唆を与えている。

伊東市での地域トラブルの行方

静岡県伊東市では,別荘地近くでの 40 MW を超えるメガソーラー計画をC 社が進めていた。2017年4月ごろから周辺住民や漁業関係者などから景観や水環境の悪化について懸念の声があがり,2017年5月に当選した小野市長も計画の大幅な見直しを求めてきた。住民グループは反対署 名を集め市や県に提出するなど活発に活動を続けてきた。2017年7月4日に伊東市議会は太陽光発電所建設に伴う開発行為に反対する決議を全会一致で可決した13。その後,伊東市は「伊東市美しい景観等と太陽光発電設備設置事業との調和に関する条例」を策定し,2018年6月に施行した。ここでは条例施行前に着工しているか否かで条例の対象となるかどうかが決まる。C 社は宅地造成等規制法の許可は取得済みであり,5 月時点で着工したと主張しているが,住民グループが事業者の計画の不備を指摘したことなどから,市は6月時点でいまだ着工していないとして規制条例が適用されるとの立場である14。一方,静岡県知事は計画に懸念を示していたものの,造成面積が45 haであることから環境アセスメントの対象には当たらず,県森林審議会の答申をふまえ許可条件をつけた上での林地開発許可を 2018年7月に出した。

こうした状況のもと,2018年8月23日に住民グループは県議や国会議員とともに,経済産業省宛に事業者の認定取り消しを求める要請文を提出した15。その後,経済産業省は事業者からも説明を聞いている。

この事例からの教訓は3つ挙げられる。まず,前出の諏訪市・茅野市の事例と同様に自治体の制度的対応は後手に回りやすく,条例整備が間に合うか間に合わないかで大きく状況が変わりうることである。次に,住民グループが専門家も含めて極めて実務的に対応している点である。事業者の申請書類の不備を指摘するといった住民グループの堅実な活動は,大きな影響力を発揮している。最後に,経済産業省の対応である。これまでは地 域トラブルが発生すると,多くの場合住民はオンラインの通報窓口や電話での相談を経済産業省に行うものの,その対応が公式に示されることはなかった。本件の先行きはまだ不明であるが,今後の改正FIT 法の運用に大きな影響を与える試金石となりうる。

中小規模事業の地域トラブル

数十MW といった大規模事業ではなくとも,数MWや数百kWの中小規模の事例でも地域トラブルは起こっている。具体的な各事例の詳細は控えるが,やはり林地や傾斜地は地域トラブルが起こりやすい。また 50 kW 未満の低圧規模でも地域トラブルは起こりうる。住宅地にある空き地での太陽光発電事業の場合は街の景観にそぐわないという意見もあれば,反射光がまぶしくなるのではないかという懸念も起こる。加えて,法令上の瑕疵がなければ行政も対応できず,周辺住民が不満を抱えたまま事業が始まることも多い。

ソーラーシェアリングへの懸念

農家の収入拡大や太陽光発電のポテンシャル拡大を目指したソーラーシェアリング(営農継続型太陽光発電)が注目を集めている。ソーラーシェアリングは営農を行いつつ,その上で太陽光発電を導入する仕組みである。このソーラーシェアリングでも地域トラブルは起こりうる。例えば,農業地域の風景が変わるという景観面の懸念,簡素な構造ゆえの台風への対策といった防災面の懸念は生じうる。またソーラーシェアリングと言いつつ売電収入だけが目的となり,農業はおまけでしかないという事例が増えれば,印象が悪化し,地域の受容性は下がっていくだろう。ソーラーシェアリングについては,ソーラーシェアリング推進連盟などの団体が主導し,地域に受け入れられる事業が増えていくことが期待される。

地域の受容性を高める地域主導型再エネ事業

福島・富岡復興ソーラー

前節で示した事例とは対照的に,地域主導型・分散型で地域の受容性が高い太陽光発電事業も数多く立ち上がっている。これらは再エネに関心をもつ市民や地域事業者を中心とした取り組みであり,コミュニティパワー事業とも呼ばれる。

福島県富岡町では,「富岡復興ソーラー高津戸・清水前太陽光発電所(32 MW)」が 2018 年に竣工し,売電を開始した。福島第一原子力発電事故で汚染された土地で,再生可能エネルギーを進めたいという地域の思いに応え,当研究所が全面的な支援を行ってきた。この事業では地域住民がオーナーであり,市民出資手法を活用することで全国の市民も出資を通じて参加している。またこの事業の収益の一部は地域復興のための社会的活動に使うことが検討されており,エネルギーと地域復興が密接に結びついている。面積にして35 haという巨大事業ではあるものの,地域に根付くプロジェクトとして現在進行形で進められている。

図3. 富岡復興ソーラー高津戸・清水前太陽光発電所竣工式の様子

図3. 富岡復興ソーラー高津戸・清水前太陽光発電所竣工式の様子

新潟・「おらって」の官民協働ソーラー

新潟市では行政と市民が連携して分散型の太陽光発電事業を展開してきた。「おらって」新潟市民エネルギー協議会を母体とした民間事業体が立ち上がり,新潟市や周辺自治体と協定を結び行政施設の屋根を活用した事業や民間所有地での事業を中心に,50 kW 前後の太陽光発電事業を 40 以上も運営している。「おらって」は新潟の言葉で「私たち」を意味し,この事業への多くの主体の関わりを象徴している。この事業では一つ一つの発電所規模が小さいためそもそもトラブルになりにくいという事情はあるが,行政と市民の継続的な連携は地域での信頼性獲得という観点から非常に重要である。

図4. 新潟市黒埼市民会館の官民協働型太陽光発電

図4. 新潟市黒埼市民会館の官民協働型太陽光発電

広がるご当地エネルギー

他にも地域主導型の太陽光発電事業は数多く立ち上がっている。会津電力株式会社は福島第一原子力発電所事故を契機に福島県会津地方の造り酒屋の社長が再生可能エネルギーを進めるため,地域の人々とともに始めたもので,市民出資を活用した 1 MW 規模の太陽光発電所も設置した16。徳島地域エネルギー株式会社は寄付型の「コミュニティハッピーソーラー」を展開している17。これ  らの地域では,太陽光発電事業が地域に受け入れられており,再エネと地域の関係性を考える上で  ビジネスモデルの面から重要な示唆を与えている。

図5. 会津電力株式会社の太陽光発電所

図5. 会津電力株式会社の太陽光発電所

教訓を活かす

地域トラブル事例からの教訓

太陽光発電の地域トラブル事例から得られた主な教訓を行政・事業者・住民グループに対して 5つ挙げる。

第一に,自治体が適切な再エネ事業のあり方を定めておくことが最も重要である。改正FIT 法の法令・条例遵守規定により,自治体が条例などで明確なルール化を行えば,地域トラブルを防ぐことにつながる。このさい,乱開発を防ぐためにまずは抑制地域を定めるとしても,将来的には推進すべき再エネ事業のあり方も検討し,支援を行えれば望ましい。

第二に,太陽光発電の地域トラブルはどこでも起こりうるため,自治体が事後的に条例を定めても間に合わない可能性が高いということである。伊東市ではその点が争点となっている。さらに言えば,地域トラブルが起こるかどうかは,規模や外部開発型かどうかで一律に決まるものではない。その意味では,図 2  に示したトラブルが「これまでに発生していないし,今後も発生しないと考えられる」または「把握していない」と回答した850 の自治体こそ注意が必要であろう。

第三に,事業者はルールに則った事業開発を行うのは当然として,状況に応じて「冷静な撤退」を常に選択肢としてもつことが企業の長期的な評  判も含めて重要である。ただし,地域とのコミュニケーションにしても環境アセスメントにしても,「正直者が馬鹿を見る(丁寧にやればやるほどコストがかかる)」という状況になっているため,正直者が得をする制度環境に変えていくことも必要である。第四に,住民グループは,ネットワーク化と実  務の両面から対応することが地域トラブルの解消に有効である。どの事例でも,住民グループは専門家の支援も得ながら支持者を広げ,SNS やマスメディアを通して発信力を拡大している。また伊東市では住民グループの精査により,事業者のミスが発覚し,条例の対象事業となるかどうかの潮目が変わった。こうした事例は,公害やダム, 原子力問題などへの取り組みでも見られた「市民科学」の考え方18を思い起こさせる。

第五に,問題のある太陽光発電事業に対し,経済産業省は指導や認定取り消しの手順をある程度明確化するとともに,対応する体制を拡充すべきである。

地域トラブルを減らしていくために

今後,太陽光発電事業の地域トラブルを減らしていくためには制度面,実務面,社会面のそれぞれから対応していくことが求められる。

制度面では,物理的・社会的・環境的条件から再生可能エネルギー利用の適地や抑制地域を示すゾーニング手法が有効な解決策の一つとなりうる。しかしながら,日本では土地利用規制にばらつきがあり,国レベルでのゾーニングを早期に実現することは難しい。今後の議論のために,ドイツのように連邦,州,市町村による包括的整合的な立地コントロールのあり方を参考にすることは重要であろう19。また他法令や条例を根拠として処分を行う現行の改正FIT 法の枠組みには行政実務の点から課題も多いと考えられるため,本来的にはFIT 法の改正か別の規制により事業の規律をより高めていくことも考えられる。

実務面ではご当地エネルギーの例のような地域に受け入れられる地域主導型の事業を増やすこと外部開発型であっても合意形成の手順をより丁寧に十分に行い,地域に社会的便益をもたらすような地域協働型の事業を増やしていくことが肝要であろう。

また広く再生可能エネルギーと持続可能な社会づくりに向けた社会的な受容性を高めることも必要である。社会的受容性を高めるにあたり,ドイツの「エネルギー転換と自然保護のための専門センター」の取り組みは大いに参考になる20。例えば同センターが運営するFAQ サイトはドイツで多い風力発電と野鳥への影響などのテーマについて,簡潔な答えと複数の専門家による詳細な議論を広く共有している。また地域トラブルの現場で議論の仲介やトラブルの裁定を行うこともある。こうした組織を日本で立ち上げるための検討を始めることは大きな意義がある。

こうした制度面,実務面,社会面での対策を総合的に進めていくことがトラブル事例を減らし,持続可能な再生可能エネルギー事業を増やしていく鍵となる。

謝辞:本稿執筆にあたり,ヒアリングにお答えいただいた行政,事業者,住民グループに御礼申し上げる。調査にあたっては,曹政宇さんをはじめ多くの環境エネルギー政策研究所インターンの支援を受けた。記して謝意を表したい。

文献・註

  1. 環境エネルギー政策研究所プレスリリース「2017 年暦年の国内の全発電量に占める自然エネルギーの割合(速報)
  2. 参考までに一般的な家庭の屋根に設置される太陽光発電は4kW 程度である。
  3. 資源エネルギー庁ウェブサイト「固定価格買取制度情報公表用ウェブサイト
  4. 例えば,神戸新聞NEXT「豪雨で太陽光パネル崩れ落ち山陽新幹線が一時運行見合わせ
  5. 山下紀明「メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」環境エネルギー政策研究所 研究報告(2016)
  6. 1741 の基礎自治体に回答を依頼し,1383 自治体から回答(79.4%)。山下英俊・藤井康平・山下紀明「地域における再生可能エネルギー利用の実態と課題:第 2 回全国市区町村アンケートおよび都道府県アンケートの結果から」一橋経済学,11(2), 49-95(2018)
  7. 環境省報道発表資料「太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会(第 1 回)の開催について
  8. 例えばつくば市の「筑波山及び宝篋山における再生可能エネルギー発電設備の設置を規制する条例」などがある。
  9. 長野日報 2015 年 2 月 1 日記事など
  10. 長野県ウェブサイト「諏訪四賀ソーラー事業(仮称)
  11. 長野日報 2017 年 1 月 24 日記事
  12. 行政職員へのヒアリングによると,観光開発やゴルフ場開発を防ぐ役割を果たしてきた。
  13. 伊豆高原メガソーラーパーク発電所(仮称)建設計画等伊東市における太陽光発電所建設に伴う開発行為に対する反対決議
  14. 伊豆新聞 2018 年 8 月 23 日
  15. 伊豆新聞「伊東のメガソーラー「事業者の認定取り消しを」経産相へ要請文」2018 年 8 月 23 日
  16. 会津電力株式会社 https://aipower.co.jp
  17. 一般社団法人徳島地域エネルギー tene.jp
  18. 市民の立場に立ちつつ,市民の知を,専門性を持って市民の側から組織していくこと」認定 NPO法人高木仁三郎市民科学基金「市民科学とは」より
  19. 高橋(2016)は,日本では県や自治体による立地コントロールに留まっているが,ドイツでは連邦,州,市町村による包括的整合的な立地コントロールが行われていることから,今後の参考となりうると指摘している。高橋寿一「再生可能エネルギーと国土利用 事業者・自治体・土地所有者間の法制度と運用」勁草書房2016 年
  20. Kompetenzzentrum Naturschutz und Energiewende(KNE)naturschutz-energiewende.de

テキスト:山下紀明(環境エネルギー政策研究所)
オリジナル掲載:岩波書店『科学』2018年10月号