2010年代は3.11を契機に全国で多くの自然エネルギー事業が始まった。ここでは地域に大きな変化を起こしている小田原での地域主導型事業、にかほ市での都市部の生協との地域協働型事業を取り上げる。

地域主導型事業の発展形へ

神奈川県小田原市でのコミュニティパワー事業は、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故により、観光客が激減したことなどがきっかけとなった。加藤市長は環境エネルギー政策研究所を訪問し、地域エネルギー事業を推進することを決めた。同年夏に小田原市は環境省の支援事業に採択され、行政・民間・専門家が連携しながら検討を進めていった。

2012年12月、市内企業24社(のちに38社)の出資により「ほうとくエネルギー株式会社」が設立された。ほうとくエネルギーの初期事業は、公共施設の屋根借り太陽光発電と、地元の方の協力によるメガソーラー事業であり、市民出資手法も用いて事業を成功させた。その後も第2期メガソーラー事業等を進めていたが、大きな転機が電力小売事業への進出であった。

同じ神奈川県内の平塚を中心とした湘南電力(株)は、2014年に誕生した地域新電力である。プロサッカーチーム湘南ベルマーレをパートナー企業に持ち、収益の一部をスポーツ活動に還元している。2017年5月に湘南電力の株式の大部分をほうとくエネルギーを含む小田原の地元企業が取得したことで、発電と小売を組み合わせた事業が可能となった。

2017年7月にほうとくエネルギーや湘南電力などは、小田原市と「エネルギーの地域自給の促進に係るモデル事業」の協定を締結した。これは、7つの私立小学校に太陽光発電と蓄電池を設置し、自家消費や地域での効率的なエネルギーマネジメントを行うものである(写真)。また幼稚園など42施設の電力供給も湘南電力に切り替え、小田原市や神奈川県の自然エネルギーを優先的に供給するよう計画している。

小田原の事例では、行政主導から民間主導に移行し、太陽光発電事業から新電力事業にまで発展した点が興味深い。市は当初の検討の場づくりを主導し、2014年には「再生可能エネルギーの利用等の促進に関する条例」を施行、公共施設の屋根貸しの際には地域性を評価する独自の評価方式を策定するなど工夫を行った。その後、小田原市は内閣府の「SDGs未来都市」に選ばれ、エネルギーの地域自給も重要なターゲットとして位置付けている。

写真1. モデル事業で設置された千代小学校の太陽光発電

写真1. モデル事業で設置された千代小学校の太陽光発電|写真提供:ほうとくエネルギー株式会社

都市部と地域の協働モデル

必ずしも地域主導ではなくとも地域に資する自然エネルギー事業はあり得る。秋田県にかほ市の事例は「エネルギーから始まる地域間連携」と呼べるものである。

にかほ市で、首都圏の4つの生活クラブ生活協同組合による1990kWの風車「夢風」が稼働したのは2012年3月のことである。従来から食と福祉などに取り組んできた生活クラブは、エネルギーの取り組みも進めるため、地域に貢献し、自然環境に留意した自然エネルギー発電所を作ることや、電力を選択して使うことを目指していた。風況の良いにかほ市に風力発電の候補地があったことから具体的な検討を進め、地域の理解も得ながら風力発電を設置した。「夢風」という愛称は、地元の小学生から公募して決めた名前である。

生活クラブはその後電力小売会社の(株)生活クラブエナジーを設立し、夢風の電気を含めた自然エネルギー中心の電力供給を組合員へ行っている。さらに、エネルギーでの繋がりを食の分野にも広げようと、生活クラブと地域の加工品生産者で地元農産物を使った商品開発を行った。今ではその売り上げは年間数千万円にものぼる。

その後もにかほ市と生活クラブは「自然エネルギーによるまちづくり基金条例」などを基に、地域活性化のための協働も進めている。また、にかほ市は環境省のゾーニング事業に採択され、風力発電の適地や抑制地域の検討を行っている。

写真2. 「夢風」の前で5周年を祝う

写真2. 「夢風」の前で5周年を祝う|写真提供:生活クラブ神奈川

エネルギーを地域の変化につなげる

今回の事例でも地域のエネルギー事業の主体は民間であり、自治体は事業の段階に応じて支える仕組みづくりを行っている。加えて、関係者を集めた場づくりや障壁を取り除く様々な下準備も行政が担っている。

2012年の固定価格買取制度の施行以降、地域には固定資産税とわずかな「地域貢献活動」が落ちてくるのみの外部主導型事業が増えた。また一時的な補助金目当ての計画づくりや設備導入も多い。それらに対して、コミュニティパワー事業の立ち上げを支援することや、地域間連携の波及効果を高めるよう誘導することは、自治体にとっては手間がかかり、苦労も多い。しかしながら、始めは小さなエネルギーの取り組みが、エネルギー以外も巻き込んだ地域の大きな変化に発展していくかどうかは、自治体の継続的かつ地道な作業にかかっている。


テキスト:山下紀明(環境エネルギー政策研究所)
オリジナル掲載:『地球温暖化』「地域から始めるエネルギー転換 − 自治体の政策と役割」(2020年1月).