現在、多くの国がグリーン・リカバリー(以下、GR)を意識したコロナ禍からの復興策を検討している。GRは、大まかにいうと、「雇用創出や経済成長を達成しつつ、温室効果ガス排出のリバウンドも防ぎ、気候変動やパンデミックのような危機に対してレジリエントな社会も作る」を意味する。

GRのより具体的な内容は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)と省エネで雇用拡大や経済成長を目指すグリーン・ニューディール(以下、GND)と大きく重なり、それは、少し前の グリーン成長(Green Growth)の議論とも重なる。

米国では、2019年2月、最年少下院議員であるオカシオコルテスらが、まさに「グリーン・ニューディール」という決議案を下院に提出した。また、最後までサンダース上院議員も民主党の大統領候補に指名されたバイデン元副大統領も後述するような独自のGND案を公表している。

本稿では、GRおよびGNDに関して、財源および格差・貧困・人種・ジェンダーなどの気候正義に関する問題にフォーカスしつつ、米国および韓国における具体的案を紹介する。

具体的な内容と財源

多くのGR/GNDは、数値目標と投資額の組み合わせである。たとえばバイデン元副大統領のGND案の場合、2035年に発電における再生可能エネルギー割合を100%とすることを目標とし、そのインフラ投資に4年間で2兆ドル(約214兆円)を投じるとしている。サンダース議員のGND案は、数値目標は似ているものの、総投資額が10年間で16.3兆ドル(1,744兆円)と巨額であり、財源や返済計画が詳細に示されている。日本での議論にも参考になるので、下記ですこし細かく紹介したい。

サンダース議員案の主な財源および調達額は、(1)化石燃料補助金廃止、化石燃料企業課税、汚染者罰金や訴訟で3兆8550億ドル、(2)石油輸送ルート保護関連の軍事費削減で1兆2,1550億ドル、(3)電力販売で6兆4,000億ドル、(4)2,000万人の新規雇用に対する所得税で2兆3,000億ドル、(5)2,000万人の新規雇用により、現在の失業支援プログラムの1.31兆ドルを節約、6)富裕層と大企業への更なる課税で2兆ドル、などである。

このような大幅な財政支出に対しては、ハイパー・インフレを引き起こすという懸念がある。しかし、例えば、Galvin and Healy(2020)は、(1)課税額や戦時中の国債発行額の規模を考えればハイパー・インフレの可能性は小さい、(2)抵抗が大きいのは富裕層課税であるが、その負担率は60年代、70年代における米国での富裕層の負担率と同じレベル、と主張している。

気候正義

GND、特に米国におけるGNDは、気候変動対策の中に、気候正義の要素である格差・貧困・人種・ジェンダーの問題が大きく組み込まれている。実際に、サンダースのGND案には、(1)2000万人の正規雇用創出(5年間賃金保証)、(2)740万戸の低価格・低炭素住宅建設、(3)120万戸の連邦住宅を含む既存住宅のエネルギー効率改善、(4)過疎地域や先住民コミュニティの気候変動へのレジリエンス向上、(5)農村地域への資金提供、(6)学校給食、などが入っている。

前出のGalvin and Healy(2020)は、格差などの問題が気候変動対策やGNDと結びつく、あるいはシナジーを持つ理由として、(1)貧富の格差が大きいほどCO2排出が大きい(ジニ係数が高い国は一人当たりのCO2排出も大きく、富裕層への課税強化と貧困層への再分配が国全体のCO2排出を減らすという研究結果がある)、(2)大企業、特にエネルギー多消費産業のCO2排出が大きく、かつ大きな利権を持つ彼らの政治的影響力が大きい、(3)気候変動対策の多くが低所得者の利益になる、(4)気候変動対策の一つであるカーボン・プライシング(例:炭素税)は低所得者層により大きな影響を与えることになり、フランスのように暴動に発展する可能性がある、(5)女性や非白人の失業問題がより深刻であり、GNDはこの問題の解決に貢献する、などを挙げている。すなわち、格差や大企業支配を減らすことが結果的にCO2の排出削減につながり、逆に、格差を考慮しない気候変動対策は失敗するということだ。

韓国のGND

韓国政府も、GNDを国策として全面に押し出している。与党が選挙で大勝した直後の2020年7月、文大統領は“Korean New Deal”を正式に発表した。めざすのは、(1)追従型の経済から先導型の経済への移行、(2)炭素依存経済から低炭素経済への移行、(3)不平等社会から包容社会への発展、の3つであり、冒頭には文大統領の「これは国家100年の計」という言葉がある。

この“Korean New Deal”は、(1)デジタル・ニューディール、(2)GND、(3)ストロンガー・セイフティ・ネットの3つの柱からなっている。全体の投資額は2025年までに160兆ウォン(約14兆円)(政府予算7割と民間3割)であり、新たに190万人の雇用を創出する計画である。

具体的な内容やプロジェクトは、公共建築物の改造、都市林の造成、リサイクル、再エネの基盤整備、低炭素エネルギー産業団地の造成などで、それぞれに対する投資額、雇用者数などを明らかにしている。また、失業対策も具体的に示している。

日本の課題

エネルギー転換もGRもGNDも、基本的に中身は同じであり、再エネ・省エネの導入と脱化石燃料である。そして現在、再生可能エネルギーの価格低下(直近10年で10分の1)によって環境と経済の二兎を追うことが可能になっている。このため、多くの国は、具体的なGR案を政府が検討している。一方、日本では、逆に、GRに逆行するような制度(例:既設の原発や石炭火力への実質的な補助金制度)が導入されようとしている。

日本におけるGR/GNDに関する具体的な提案としては、筆者も関わった「原発ゼロ・エネルギー転換戦略」がある。このような具体提案をベースに、日本でもGRやGNDが活発に議論されることを期待したい。

参考文献

  • Galvin Ray and Healy Noel(2020)“The Green New Deal in the United States: What it is and how to pay for it”, Energy Research and Social Science, 67, 101529.

Text: 明日香壽川(東北大学)