前回は自然エネルギーの普及が加速する中で、地域の未来像を変えていくために自治体はエネルギー政策を策定し、裏方として支える役割が重要と述べた。今回は地域を動かしていく駆動力となるコミュニティパワー事業の原点を紹介する。

コミュニティパワー事業とは

コミュニティパワー事業は自然エネルギー・省エネルギーを核とした地域主導型のエネルギー事業で、ご当地エネルギー事業とも呼ばれる。

コミュニティパワー事業の3つのキーワードを挙げれば、地域の「所有」「当事者意識」「社会的便益」となる。2012年の固定価格買取制度の施行以降、全国に数多の自然エネルギー発電所ができたものの、その多くは都市部の企業が所有していて、残念ながら迷惑施設と捉えられているものもある。

対照的にコミュニティパワー事業では、地域のメンバーが自ら考え、紆余曲折を経て合意形成に至り、実現していく。そこでは必然的に、エネルギー設備を地域で所有すること、プロセスの全てで判断・決断を行う当事者意識を持つこと、そして経済活動として成り立たせながら地域社会を変えていく取組みを両立させることが議論され、共有される。

2つの源流

コミュニティパワー事業の源流の一つはデンマークにある。中でもデンマークの中心に位置する人口4,000人のサムソ島はその象徴となっている。デンマークには協同組合の伝統があり、環境エネルギー事務所という自然エネルギーの普及とプロジェクト開発を担う仕組みもあった。

サムソ島では1997年からデンマーク政府やEUの助成を得て、環境エネルギー事務所が主体となって自然エネルギー事業を進めた。島民出資や地域金融機関の融資も用いて陸上風力、洋上風力(写真1)、バイオマス熱利用、太陽熱利用などを進め、10年で自然エネルギー100%を達成し、雇用も生み出した。自治体は、初期のプロジェクトにおいて信用保証を行うことで、事業の実現に大きな役割を果たした。

写真1. サムソ島洋上風力

写真1. 島民出資の洋上風力発電(サムソ島)

日本でのコミュニティパワー事業の源流は長野県飯田市にある。2004年から環境省の補助を受け、市と環境エネルギー政策研究所が支援を行い、地域のNPOを中心としたおひさま進歩エネルギー有限会社(後に株式会社、以下、おひさま進歩)を立ち上げた。おひさま進歩は全国からの市民出資と公共施設の屋根を活用した太陽光発電事業を企画し、飯田市は20年間の屋根貸しと固定価格での電気買取りを認めた。

今でこそ公共施設の屋根貸しは広く知られているが、国の固定価格買取制度のない2004年当時では例のない支援策であった。この判断に際しては、かつて金融機関に勤めていた首長の決断が重要であった。この支援により、計37カ所の公立幼稚園・地域センターなどに太陽光発電を設置することができ、初期の事業が成立した。

その後、おひさま進歩は継続的に事業を拡大しながら、環境教育も行い、今では地域の子供達の多くがおひさま進歩の取組みを知っている。

飯田市は2009年に内閣府の環境モデル都市に選ばれ、エネルギーを明確に位置付けた未来像を策定し、地域転換を進めていった。そして2013年には画期的な「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」を策定した。これは、住民に「地域環境権」を保障し、地域主体による自然エネルギー事業がその収益の一部を地域課題の解決に活用する場合に「地域公共再生可能エネルギー活用事業」に認定し、市の専門委員会による助言や認証を行うことで、飯田市はお金の持ち出しをせずに支援を行うものである。

例えば、旭ヶ丘中学校生徒会役員選挙の公約がきっかけとなり、旭ヶ丘中学校太陽光発電推進協議会とおひさま進歩の協働事業で太陽光パネルが設置された(写真2)。この事業の売電収益の一部は、同校生徒会が中心となって環境教育や地域のために活用する。

写真2. 旭ケ丘中学校

写真2. 旭ヶ丘中学校の屋上太陽光発電|写真提供:おひさま進歩エネルギー株式会社

行政は裏方で支える

2つの事例は多くの点で共通している。民間が所有し、当事者として決断し、地域に雇用や課題解決をもたらすコミュニティパワー事業であること。10年、15年と継続し、地域の未来像を変えてきたこと。そして自治体は裏方で民間の取組みを支えてきたことである。日本の行政では首長も担当者も2、3年で変わるリスクがあり、事業運営のノウハウも蓄積されない。従って基本的に事業の主体は民間で行うことになる。しかし、そのための「仕組みづくり」を担えるという点で、行政は唯一かつ重要な役割を持っている。

現在はコミュニティパワー事業立ち上げを支援する国の制度もある。特に農山漁村向けには、農林水産省が専門家による相談事業(窓口:全国ご当地エネルギー協会)やセミナー(窓口:日本能率協会コンサルティング)を提供している。


テキスト:山下紀明(環境エネルギー政策研究所)
オリジナル掲載:『地球温暖化』「地域から始めるエネルギー転換 − 自治体の政策と役割」(2019年11月).