「非核家園」は、台湾のエネルギー・トランジションの柱の一つである「脱原発」政策のスローガンである。2017年には「電業法」(電気事業法)第95条を改正し、台湾最南端の屏東県恆春鎮に位置する第三(馬鞍山)原発(図1)の予定稼働停止年、すなわち2025年をもってすべての原発を停止させるとする法律を定めた。さらに現在の原発稼働免許を延長させない立場をとっており、既に一部の原発については廃炉プロセスが始まっている。

図1. 台湾における原子力発電所の位置図 / 出典:筆者作成

図1. 台湾における原子力発電所の位置図 / 出典:筆者作成

一方で、2016年以降は2018年に脱原発そのものの可否、そして昨年2021年には第四原発の稼働の可否が国民投票にかけられるなど、脱原発を含む台湾のエネルギー問題は、政治的な思惑と無縁ではなく、政治において最優先課題の一つであるといっても過言ではない。

とりわけ、これまでに論争となっているのが第四(龍門)原発(写真1)である。第四原発の廃止は、現与党民進党の政治主張の核心の一つである。民進党は建設計画の凍結、商業運転の反対を一貫して主張している。一方で野党国民党は発電コストや電力供給の安定性などから、原発支持の立場を崩していない。

写真1. 第四(龍門)原発 / 出典:台湾電力会社

写真1. 第四(龍門)原発 / 出典:台湾電力会社

近年の国民投票にて問われる脱原発問題

2018年11月に行われた国民投票において、脱原発は国民の支持を得られず廃案となった。その結果、前述の電業法第95条改正案に示されている「すべての原発が2025年までに稼働停止とする」という規定は直ちに廃止され、しかも2年以内は同様の法改正ができないため、これによって「2025年の脱原発」のための法的根拠は失われた。

この結果を受け、第四原発の商業運転再開に関する投票案が、昨年2021年の12月下旬、国民投票にかけられることとなった。尚、この時の国民投票では、石炭火力の代替として期待が高まる天然ガスの新規ターミナル建設と、それに伴う環境破壊に関する案件も同時に投票案が設定されるなど、市民の生活とかかわる環境、エネルギー問題が再び政治論争の表舞台で脚光を浴びていた。

国民投票案は、有効同意票が反対票よりも多く、かつ有権者総数の4分の1以上であれば可決されることとなるが、昨年の国民投票では第四原発の商業運転再開は国民の信を得られず、「原発を段階的に廃止」という現在の方針が今後も継続される見込みとなった。また、天然ガスのターミナル建設案のほうは、計画通り進められることが決定した。

特に台湾で脱原発に高い政治的推進力が見られる背景として、2016年に起きた脱原発を掲げる民進党への政権交代のほかに、以下のように幾つかの理由も挙げられる。

まずは、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故である。日本と同じように地震災害の多い台湾では、この事故は大きな衝撃をもって受け止められ、2年後の2013年3月には台湾各地で大規模な反原発デモが組織され、22万以上の市民が参加したと言われるほどに反原発の機運が高まりを見せた。

更に追い打ちをかけるように、2013年には第四原発の所在地と付近海域に新たな断層帯が発見されたことや、設計上のトラブル、一連の安全確認試験において一部懸念が示されるなど、第四原発は、安全性に対する不安を払拭しきれていない。

核廃棄物の処理と貯蔵も深刻な問題として認識されており、台湾においても、核廃棄物処理と貯蔵、安全性対策などを発電コストに計上すると原発はもはや安価な発電手段ではなくなっている。

このように、天然ガス・再生可能エネルギーの拡大と脱石炭・脱原発を軸とした台湾のエネルギー・トランジション政策目標は、今後も堅持されると見込まれている。好調な国内経済と世界の脱炭素の潮流の間でどうバランスを取るのか、今後の台湾の動向は注目に値する。

Text: 鄭方婷(アジア経済研究所)