Yating Yuan: こんにちは、ポッドキャスト「エネルギーと気候変動に関する海外シンクタンクレポート」の第10回目をお届けします。Rock Environment and Energy Institute (REEI) のYating Yuan(以下 YT)です。
Ye Lu: こんにちは、REEI の Ye Lu(以下YL)です。 本日ご紹介するのは、UKPACT と中央財経大学国際グリーンファイナンス研究所の支援を受けて、気候政策イニシアチブ(CPI)シンクタンクが作成したレポートです。タイトルは「中国におけるグリーンバンキング – ICBC を中心とした新たな動向」。 このレポートは、中国におけるグリーンバンキングの発展を概観し、主要なグリーンバンキングの政策と実践、これまでの成果および今後の拡大の障壁を明らかにしています。 また、商業銀行を経営事例として、グリーンバンキングの実践的な展開を紹介しています。ところで、YTさん、このレポートを発表した団体であるCPIシンクタンクを紹介してもらえますか?
YT: CPIシンクタンクは、政府、企業、金融機関が気候変動に対処しながらグリーンな経済成長を促進するために、金融や政策に関する深い専門知識を持つ分析・アドバイザリー機関として2009年に設立されました。それでは、YLさん、中国のグリーンファイナンスの発展について教えてください。
YL: そうですね、1995年に中国人民銀行が中国初のグリーン金融政策となった「クレジット政策の実施と環境保護の強化に関する問題に関する通達」を発行し、2012年には「グリーンクレジットガイドライン」が公布され、2013年には「グリーンクレジット制度」が開始しました。 銀行のグリーンファイナンス政策が急速に拡大したのは2015年以降のことです。 YTさん、グリーンクレジット制度の核心な特徴を詳しく説明しましょう。
YT: グリーンローンのための中国のクレジット統計システムはグリーンクレジット政策の重要な特徴です。 グリーンローンには、保険規制委員会(CBIRC)に定義された13のカテゴリーがあります。その中の2つの重要なプログラムが省エネルギー建物やグリーンビルディングなどのエネルギー効率や環境保護に重点を置いたプロジェクトやサービス、そして省エネルギー製品や新エネルギー製品、新エネルギー自動車などの製造を対象としています。グリーンクレジット統計システムには、不良債権率とともに、グリーンクレジットの申請書とグリーンクレジットの実績データのレポートが含まれています。 この統計システムは、中国のグリーンクレジット政策のユニークで革新的な特徴です。
YL: はい、2016年の「グリーン金融システム構築のためのガイドライン」の公表以降、グリーンクレジット政策は、金融政策、長期・中期貸出手段、さらにマクロ・プルーデンスを通した直接的な金融面でのインセンティブの提供など、様々な省庁や規制当局によって採用されています。 YTさん、これらの方針について具体的に教えてもらえますか?
YT: 2018年以降、中央銀行の公的収入管理やマクロ・プルーデンスにおいて、銀行のグリーンパフォーマンスが重要な要素となっています。グリーンクレジット政策のアプローチには定量的なものと定性的なものがあり、これはマクロ・プルーデンスフレームワークの7つの領域の1つです。評価フレームワークは、グリーンローンの割合などの定量的な変数が8割、銀行がグリーンボンドを発行しているかどうかなどの定性的な指標が2割で構成されています。 これにより、銀行のグリーンローン残高、グリーンボンドの発行量が多ければ多いほど、資本準備金の要件が低くなるとしています。この政策は、もちろん中国のグリーンローンと非グリーンローンの不良債権比率の統計に基づくものですが、政策的には金融面のインセンティブとしての役割もあります。政策的なインセンティブに加えて、レポートの中では銀行のグリーンローン商品についても言及しています。
YL: 銀行のグリーンローン商品については、中国の銀行が提供しているグリーン金融商品の範囲が広く、近年急速に拡大しています。 各金融商品の割合については包括的なデータはないが、専門的な商品、担保付きアプローチ、資産担保証券、国際的なグリーン・クレジット・ラインなど、多様化していることは注目に値します。具体的には、(1)再生可能エネルギー融資やエネルギー効率化融資、(2)環境クレジット、排出許可証、炭素資産の金融化、そして(3)国際グリーンクレジットラインの開発に向けた国際機関との連携強化などが挙げられます。 これは、グリーンバンキングがグリーンローンにとどまらず、グリーンボンド市場や国際的なグリーンファイナンス協力をさらに支援できることを強調しています。
YT: そこで、グリーンクレジットの財務実績を中心として見てみましょう。2018年末時点で、グリーンローンの不良債権比率は0.42%、クレジット全体の不良債権比率は1.83%となっており、グリーンローンは他のローンよりもリスクが低くなりました。 グリーンローンの多くは、再生可能エネルギー発電プロジェクト、清浄水や飲料水プロジェクト、交通システムのエネルギー効率化プロジェクトなどのインフラプロジェクトを対象としています。 これらのプロジェクトは、すでに比較的安定した資産クラスであると考えられています。 しかし、より詳細な統計が公表されていないため、国有企業の債務者や公的保証を受けているプロジェクト、多額の補助金を受けているセクターへの融資など、他の変数が不良債権率に与える影響をコントロールすることはできません。 とはいえ、グリーンローンが6年間で市場の10%を占めていたことを考えると、全体的な証拠はしっかりしています。 リスク管理や金融の安定性を維持するために、金融システムの規制当局に権限を付与し、金融システムのガバナンスにグリーンファクターを盛り込むことが合理的であると結論づけられます。
YL: 趨勢としては、グリーン産業への投資需要は今後も拡大し、金融システム全体の発展に伴い、グリーンクレジットの傾向も拡大していくことが予想されます。このレポートは、グリーンファイナンスの発展の阻害要因として何を挙げていますか?
YT: 主な障壁はガバナンス、政策、経済環境にあります。 ガバナンス面では、リスクモデリングや管理が不十分であることが主な障壁となっています。政策面では、現在の金融面での直接的なインセンティブは、銀行に明確なシグナルを送ることには十分ではなく、このような企業への投資を増加させ、同時にグリーンへの移行を促進させることができません。環境面では、高炭素プロジェクトに対する現在の罰則は、グリーンクレジットを奨励するにはあまりにも限定的です。
YL: そう、先ほど高炭素プロジェクトの罰則は限定されているとおっしゃっていましたね。企業は炭素取引市場で炭素排出権を購入し、許容量を超えた炭素排出量を相殺することができます。しかし、取引価格は炭素取引市場によってばらつきがあります。2019年の炭素取引価格によると、北京の平均炭素価格は83.27元/トン、重慶の炭素価格は6.91元/トン。これはEUの炭素市場の炭素価格203元/トンよりもはるかに低いため、中国の炭素取引市場要因が高排出プロジェクトに強い拘束力を与えられません。また、現在の経済環境では、グリーンプロジェクトは投資コストが高く、期間が長く、金利が低い傾向にあります。伝統的な経済分野である労働集約的で汚染度の高い製造業や加工業への投資はリスクが高まり、全体のリターンが低下しているとの趨勢もあるが、それでも銀行は短期的に大きな利益を得ることを優先しています。
YT: ここでは、中国工商銀行(ICBC)の事例研究に移り、グリーンファイナンス活動がどのように発展してきたのか、また、ICBCのグリーン資本市場への取り組みがポートフォリオにどのような影響を与えてきたのかを説明していきます。まず、ICBC のグリーン・ファイナンスへの貢献から始めましょう。
YL: ICBCは中国におけるグリーンファイナンスの最大の貢献者です。 2007年、ICBC は中国の商業銀行として初めてグリーンクレジット政策を実施し、グリーンローンの拡大への扉を開けました。また、2014年に中国の銀行として初めて国連環境計画(UNEP FI)に加盟し、中国の金融機関が持続可能な金融の国際的なルール作りに参加できるよう支援する「環境と持続可能な発展に関する声明」に署名しました。2019年 ICBC のグリーンローン残高は1兆3,508億元で、融資総額の8%を占めました。ICBC はグリーン政策と融資慣行の採用をますます進め、銀行部門全体のグリーン慣行の採用を加速させる上で重要な役割を果たしています。 ICBC は、より多くの中国の金融機関の手本となっています。
YT: これに加えて、ICBC はグリーンポートフォリオの拡大にも取り組んでいます。これまでに3億7,000万ドルのグリーンローンを発行しており、2019年には初の人民元建て「一帯一路」ボンドを発行し、総額22億ドルに達しました。 このボンドは、「一帯一路」沿線諸国のグリーンファイナンス活動を支援するために使用されます。 グリーンボンドによる収益のほとんどは、クリーン輸送、陸上の再生可能エネルギー発電、「一帯一路」沿いの洋上風力発電プロジェクトなどに使われています。しかし、各国の市場のグリーンボンドの基準は統一されておらず、国際的なグリーンファイナンスの基準に合わせることが難しく、さらに一部の金融商品は、グリーン金融基準の完全なシステムからまだほど遠いところにあります。 その結果、中国のグリーンボンド市場はこれ以上の開放ができず、グリーンボンドの相互運用性や国境を越えた資本の流れを阻害しています。また、国内グリーンファイナンス市場の偏在と専門的な技術支援の欠如も、グリーンファイナンスの発展を妨げる明白な障害となっています。そう言えば、グリーンファイナンスの状況を反映したデータはありますか?
YL: 事実上のデータでは、化石燃料金融活動は ICBC の融資総額の 14%を今も占めており、その規模は世界で 18 位であります。現時点、グリーンファイナンスの実践が ICBC の化石燃料調達を大幅に削減したという直接的な証拠はないです。しかし、グリーンファイナンスが ICBC のバランスシート全体に与える影響は、化石燃料からの資金調達を考慮しない場合には、ごくわずかです。
YT: 結論として、中国の銀行は、中国経済のみならず世界経済の脱炭素化に貢献できる大きな可能性を秘めています。 中国の政策立案者はグリーンバンキング政策の革新の最前線におり、中国の銀行は様々なグリーンクレジット商品を利用し、専門的な商品、担保付きアプローチ、資産担保証券、国際的なグリーン・クレジット・ラインなど、多様性が増していることを示しています。 ICBC のケーススタディによると、中国開発銀行、平安銀行、華夏銀行いずれもグリーンファイナンスの開発に着手しています。これは、規制の圧力に応えるためであると同時に、新たな金融機会を模索するためでもあります。では、グリーン・ファイナンスは他にどのような役割を果たしているのでしょうか?
YL: 資源を節約し、環境にやさしい社会を構築し、エコロジー文明という目標を推進し続けるための国の努力の中で、グリーンファイナンスは新しい経済トレンドです。グリーンファイナンスは、金融の発展と環境保護の両方を両立させることができる新しい経済トレンドであり、持続可能な人類の発展を促進するための重要なツールです。 中国経済への厳しいプレッシャーを考えると、グリーンバンキングにおけるリーダー的地位の維持に向けた改革と野心は特に重要です。国際貿易の大幅な縮小や2019年の新型コロナウイルスの影響があっても、グリーンバンキングを優先することは気候変動の危険に対処し産業のグリーン変革を推進するための重要な一歩であり続けます。しかし、このレポートの欠点は、グリーンバンキングの具体的行動について言及されていないことや、銀行部門がどのような実践的なプラスの影響を得たか、どのような低炭素排出量削減の財務的な決定がなされ、どのような低炭素排出量削減目標の達成を支援してきたかのも省略されていることです。
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テキスト:袁雅婷