地球全体の気温上昇を1.5度以内に抑えるための必要条件の一つに、2050年前後に世界全体での「カーボンニュートラル(炭素中立)」、つまり、地球温暖化に及ぼす影響が最も大きい温室効果ガス(GHG)である人為起源の二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることが必要とされている。11月中旬に閉幕した国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(COP26)においても、1.5度の実現が大きな争点となっていた。

UNFCCCに参加していない台湾も、気候変動対策の一環として排出削減に取り組んでいる。蔡英文現政権は2016年に政権交代を果たした後、脱原発(「非核家園」=原発のないふるさと)や再生可能エネルギー(再エネ)の拡大などを目指すエネルギー転換を軸に、省エネ、発電・蓄電の技術革新等を包括する「持続可能なエネルギー政策」を推進してきた。

この政策の柱となるのは、2016年当時の石炭火力発電設備容量(約35.5%)を2025 年には30%に、原子力発電は約10.4%から0%にする一方で、これにより減少した電力供給は、天然ガスの割合を約31.6%から50% に、再エネは約9.5% から20%に引き上げることで補う、いわゆる「エネルギー転換」である。

このエネルギー転換による台湾全体のGHG排出 削減目標は、2050年に2005年比で 50%削減と設定されている。2020 年までの途中経過を見ると、確かに原発は減って約 6.7%、再エネと天然ガスは増えてそれぞれ約 16.4%、約 32.4%となっているが、同時に電力需要の増加に伴い石炭火力も36.4%と増えてしまっている(図 1)。「2050年50%減(2005年比)」の政府目標は今、新たな課題に直面しているのである。

図1. 台湾における近年の発電装置容量の推移(原子力、石炭火力、天然ガス、水力を含む再エネ/単位:キロワット)

出典:台湾経済部能源局のデータにより筆者作成

深刻化する気候変動に歯止めをかけるために必要な措置として、世界的にカーボンニュートラル宣言がなされる中、台湾の現行の削減目標は国際的に見れば消極的と受け取られかねない。そこで政府は法律の整備を急いでおり、現行の「温室効果ガスの削減と管理に関する法律」を、2050年カーボンニュートラルや炭素税の導入まで盛り込んだ「気候変動への対応に関する法律(氣候變遷因應法)」に改正すべく、2021年10月には草案が提案されている。この草案には炭素税導入が盛り込まれおり、コスト増を懸念する企業も多いことから、今後活発な議論がなされていくと思われる。

また、カーボンニュートラルに続いて現在産業界を中心に世界中の注目を集めているのが、欧州委員会が2021年7月に公表した新たな規制案である「国境炭素調整措置」(CBAM)である。CBAMは「国境炭素税」とも呼ばれ、EU域内の事業者が対象となる製品を域外から輸入するにあたって、「カーボンリーケージ(注)」を防ぐために、生産過程で排出された炭素の量に応じて、関税などの形でEUと同等のカーボンプライスを課す措置である。グローバルなサプライチェーンに深く入り込んでいる台湾の産業界もこのような規制と無縁ではいられず、その対応については次回以降紹介していきたい。

注:カーボンリーケージは、温室効果ガスの排出規制の程度が国により異なる場合、規制が厳しい国の産業と規制が緩やかな国の産業との間で国際競争力に差が生じ、その結果として、規制が厳しい国の生産・投資が縮小して排出量が減る一方、規制が緩やかな国での生産・投資が拡大して排出量が増加すること。

Text: 鄭方婷(アジア経済研究所)